この記事を書いた後、ファイアーエムブレムシリーズにおけるリセットの有無による体験の変化についても説明できるのではないかと考えていた。
ファイアーエムブレムシリーズにおける大きな特徴として、
- 前の章に戻れない一方通行のゲーム進行
- キャラの成長が確率に基づくランダム(一部例外あり)
- 死んだ仲間は復活しない(近年では選択式)
などの要素が挙げられる。
これらは全てこのシリーズの「不可逆性」を象徴しており、それ故に「ノーリセット」を貫くか「リセット上等」でプレイするか、ということが話題になることも少なくない。
ひとまず、上記の記事で導入したゲームの3要素を、ファイアーエムブレムシリーズに共通する要素としてあてはめると、以下のように整理できる。
①探索・調査:情報収集
各章の敵やアイテムの配置、武器やスキルの性能、増援のタイミング、仲間にする条件などの把握
②ビルド・戦略:ユニットの育成と進軍計画
有限のリソースをどのユニットに投資するかという中長期的なビルドや、誰を出撃させてどのルートで進軍するかといった戦略
③判断・操作:現場での戦術判断
確率的な行動に対するリスクリターンの判断を含む、目前の局面に対する戦術の意思決定
この枠組みを元に、ファイアーエムブレムにおける「リセット」やその他の要素が体験にどのような変化をもたらすのかを考察していこうと思う。
- 「初見」×「ノーリセット」プレイ
- 「情報あり」×「ノーリセット」プレイ
- 「リセットあり」プレイ
- 記憶の不可逆性と「うろ覚え」プレイ
- 現代FEにおける調整システム
- 終わりに
- おまけ:本記事の視点から見るおすすめFE作品
「初見」×「ノーリセット」プレイ
では、このような構造のゲームにおいて、「リセット」の有無はどのような変化をもたらすのだろうか。まずは初見(ゲームの具体的な情報についてほぼ知らず、参照もしない)かつリセット禁止でプレイすることを考える。
まず①について。リセットを縛ることは、ゲームの不可逆性を増大させることに繋がるため、情報の十分な収集を許さない制約となる。
①の不足により、②は戦略を立てる材料が揃っていない状態から始まる。更に、ユニットの成長吟味をしたり、ある程度のリスクを許容した攻撃的な戦略を採用したりといった、リセットありならできる事も不可能となる。つまり、ノーリセットでは乱数の下振れに耐えるための冗長性(バックアップ)を組み込むことが②の本質となる。
③についても同様に、「80%なら当たるだろう」ではなく「仮に80%を外したらどうするか?」というリスクが大きな意味を持ってくる。
リセットありの③は「最適解を通す作業」になりがちだが、ノーリセットの③は「取り返しのつかないリスク管理」へと変貌を遂げる。
通常のゲームでは、①で得た情報を②に活かし③で実行する、というフローになるが、ノーリセットのファイアーエムブレムでは
- ①が圧倒的に少ない状態で
- ②戦略を立てる材料が揃わないまま
- ぶっつけ本番の③の判断を強いられる
となり、いわば「極限のサバイバル」構造になる。この極限の状況下で生まれる生存を賭けたドラマがあるからこそ、配信を見て楽しみたい視聴者には人気のプレイスタイルであることに間違いない。
「情報あり」×「ノーリセット」プレイ
一方で、外部情報(攻略サイトなど)を参照している状態でノーリセットを選択する場合、①は既に埋まった状態からスタートすることになる。
この場合、②の戦略は「未知への備え」から「既知の脅威に対する最適化」へと変化するが、リセットができない以上、依然として乱数の下振れを許容する冗長性は排除できない。
③の判断についても、正解を知っている状態での「確認」に近い側面を持ちつつも、失敗が許されないという重圧から、ミスを極限まで排除するストイックなリスク管理の遊びとなる。これは、パズル的な側面を持ちながら、最後の一線でサバイバル的な緊張感を維持する、失敗できないパズルとして独自のバランスを持ったプレイスタイルと言えるだろう。
「リセットあり」プレイ
リセットありの場合、プレイヤーは「リセットを繰り返して自力で①の情報を集める」という「情報の猶予」を手に入れる。これは②の戦略の精度を高めることにも繋がる。
これは時間をコストに情報を得る典型的な①のプロセスであり、外部情報を参照してこの時間を短縮することは、②や③をより楽しむための合理的な選択となり得る。(前回の記事参照)
更に、先程も少し触れたが成長吟味や危険な戦略をとることが可能になることで、制限なく②のビルドや戦略立案を行えるようになる上、③は「リスク管理」より「解の検証」の意味合いが強くなってくる。
つまり、「リセットあり」のプレイは、何度も繰り返して開発者が用意した難題に立ち向かう「最適解パズル」の構造となっていると考えられる。
記憶の不可逆性と「うろ覚え」プレイ
ここで一つ、ゲーム体験における事実として「情報は一度得てしまうと、知らない状態には戻れない」という問題がある。
増援の配置や加入条件を覚えていると、①の枠が恒久的に埋まってしまう。どれだけリセットを縛っても、初見時の体験を再現するのは構造的に難しい。
では、「うろ覚え×ノーリセット」という遊び方はどうだろうか。
このプレイスタイルでは、時間の経過による「忘却」を不確定要素として利用する。
- 不確かな記憶に基づき
- リスクを織り込んだ②の戦略を練り
- 記憶から漏れていた事態には③の現場判断で対処する
これは完全な「初見」とも、全ての確定的な情報を得た状態とも違う、経験に裏打ちされた直感(アドリブ)を試す遊びと言える。
調べればいくらでも攻略情報が得られる現代において、あえて不確かな情報を頼りに戦うことは、FEにおける一つの贅沢な楽しみ方ではないだろうか。
現代FEにおける調整システム
難易度選択
難易度選択は、各ステップにおける「許容誤差」の調整であり、文字通り「難易度」を選択できると受け取っていいだろう。
低難易度であれば、①の情報の不足や②の戦略の不備、③の判断ミスなどが許される範囲が広がる、といった具合である。
カジュアルモード
ユニットがロストしないカジュアルモードの搭載は、戦略・戦術の双方において「失敗のコスト」を再定義し、体験の質に変容をもたらした。
しばしばカジュアルモードは「リセットあり」のプレイと比較されるが、「リセットあり」のプレイにおいて失敗の代償は「章の最初からやり直すという現実時間の喪失」である一方、カジュアルモードでは失敗の代償は「章における一時的な戦力ダウン」に留まる。
これはコストとしては「リセットあり」以上に軽くなっており、②戦略においては、より攻撃的・効率的な進軍計画を立てることが可能になる。
また③戦術判断においても、「失敗=やり直し(100点以外は認めない)」というパズル的制約から解放される。これにより、「数人の撤退を許容してでも、このターンで敵を殲滅する」といった、リセットありのプレイでは選択肢にすら入らない「次善の策」を積極的に選ぶという、独自の判断基準が生まれる。
これらは、ファイアーエムブレムの「不可逆なリスク」をシステム側で最小化することで、リスク管理よりもキャラクターの活躍やビルドの成果を最大化させるための設計と言える。
巻き戻し
Echoesから搭載された巻き戻しシステムは、一章まるごとやり直す「マクロな猶予」を、数手前に戻す「局所的かつ選択的な猶予」に変換した。
失敗した瞬間から「なぜ失敗したか」という情報をその場で学習し、即座に②や③を修正・再実行できる。これは単純な救済措置やリセットの代替というより、試行錯誤のサイクルを高速化させることで「ライブで情報をアップデートしながら戦う」という、独自のゲーム体験を生み出している。
また、多くの場合巻き戻しに回数制限があるため、「そもそもどこの地点からやり直せばいいのか?」という新たな問題が提起され、新しいゲーム性を生み出しているのが面白い。
終わりに
以上の考察から、リセットの有り無しはゲームの体験を根本的に変えるものだと結論づけられる。
ここで重要なのは、一概にどれが良いということではなく、「どの体験を選ぶか」という好みの問題だ、ということに注意してほしい。
また、後半で紹介したように現代のFEには多くの要素が搭載されている
これらを自分好みに組み合わせることで、理想のFEスタイルを見つける一助となれば幸いである。
おまけ:本記事の視点から見るおすすめFE作品
ファイアーエムブレム トラキア776

―「初見×ノーリセット」という極限のサバイバル
初見殺しの数々、0%や100%のない戦闘、ランダムでの再行動、そしてリセットで調べるだけでは到底気付けないマスクデータなどなど、①や③における不確実性が非常に高く、この記事で述べた「極限のサバイバル」を最も純粋な形で体験できる作品である。
ファイアーエムブレムif 暗夜王国

―「リセットあり」前提で完成した最適化パズル
攻陣・防陣やスキル、武器性能などが絡む盤面の判断は極めて複雑かつ洗練されており、全てを知っていてもなお、最適な進軍計画と戦術判断を導き出すことが極めて難しい高難易度マップ群。
本作の最高難易度は「情報あり×リセットあり」という前提のもとでさえ②③を徹底的に詰めることを要求する設計になっており、「最適解パズル」としてのファイアーエムブレムが最も完成された形で表現されている作品と言える。
ファイアーエムブレム エンゲージ

―ビルドと試行錯誤を楽しむ現代FEの集大成
過去作主人公も登場するお祭り的なキャラゲー性を持ちながら、エンゲージシステムによるビルドの自由度が非常に高く、何周も異なるビルド・戦略を試すこと自体が楽しい設計になっている。
モード選択や巻き戻し等現代の遊びやすいシステムは一通り取り揃えており、「自分好みにFEの体験を調整する」という現代的な遊び方を最も素直に受け入れてくれる作品。